空前のラグビーフィーバーとなった“ラグビーワールドカップ2019”。
ご存知のとおり“ラグビーワールドカップ2019”は日本で開催され、アジア初、
またティア1以外の国における初の開催となった。
そして、日本代表は史上初のベスト8進出を果たす快進撃で、
日本列島にラグビーブームを生み出し、日本中に感動と希望をもたらした。
このワールドカップラグビー成功には、選手の頑張りや、ラグビーサポーターたちの
心意気はもちろんのこと、裏方で支える人たちの努力なくしては成しえなかったはず。
今回は、感動の舞台を支えたグラウンドキーパーの一人が
バロネスEメールマガジン読者の皆さまだけに
“ラグビーワールドカップ2019”の芝生管理にかけた思いを語ってくださいました。
株式会社豊田スタジアムのヘッド・グラウンドキーパーの田井中修 氏です。
豊田スタジアム
https://www.toyota-stadium.co.jp/
![ヘッドグラウンドキーパー田井中修氏](http://www.baroness.co.jp/mmn/vol77/mmn_textimagetate_1_77_02.gif)
ラグビーW杯の年をどんな年にするのか?田井中氏の闘いは、4年前から始まっていた。
ヨーロッパにはラグビー専用スタジアムがある。たが、ここ(豊田スタジアム)は違う。
Jリーグ名古屋グランパスのホームスタジアムだ。
まずはサッカースタジアムとして最良の状態を保たなければならない。
そして、X(エックス)Dayは、ラグビースタジアムとして最良の状態にすること。
どちらも完璧を求めることは容易ではない。そもそも芝生の管理方法も全く違うのだ。
それでも“与えられた目標を達成するために努力する”これが田井中氏のポリシーだ。
豊田スタジアムがラグビーワールドカップ会場に決定してから、
世界のプレイヤーに自分たちの技術がどこまで通用するのか?と不安もある中、
すぐに行動に移した。
まずは芝生選びから始めた。
欧米のラグビー会場では主流となっている人工芝と天然芝を掛け合わせた
ハイブリット芝を採用した会場もある中、天然芝(高麗芝)を採用することを決めた。
それが「復興芝だ!」
http://www.baroness.co.jp/mmn/vol75/mailmagazinevol75020190327kat.html
導入は、2005年から芝生の委託栽培をしていた会社が東北にあったことがきっかけ。
月1~2回訪問し、ラグビーW杯のための芝生を土壌から一緒に作り上げた。
試行を重ね、質の高さが証明されたことで正式導入を決め、6月に張り替えを終えた。
田井中氏は
「正直、これが一番苦労した。15年のグラウンド管理の経験と勘を頼りに
自分を信じ、人に頼りながら進んでいく中、本当にこれでいいのか?と自問自答
することもあった。初めての経験で思い通りにいかないこともあった。
それでも皆がんばった。 “天然芝で良かったね”と言ってもらいたかったから…。」
と苦労を覗かせた。
豊田スタジアムは日照不足が課題でもあったが、田井中氏は見事なピッチを作り上げた。
復興芝は4年分のランナーが4層に根を強く張り、はがれにくく見事な舞台を彩った。
天然芝に見えないほどきれいに張られていた。そして、一流選手の踏ん張りに耐えた。
W杯開催中、田井中氏は
「オレたちが作り上げた夢舞台で、最高の試合をしてほしい。」
と一流の選手が躍動する様子をピッチの片隅で見守った。
ある日、そんな田井中氏の苦労が喜びに変わった瞬間があったという。
「トップリーグトヨタ自動車ヴェルブリッツに所属する姫野和樹選手が
『田井中さん、良かったよ。芝生がスパイクに引っかかって踏ん張りが効いて、
しっかりスクラムを組めたし、ステップもし易かった。
日本のベスト8は豊田スタジアムのおかげだよ。』と言ってくれた。
オレも日本代表の快挙に貢献できたのか?と本当に嬉しかった。」
と満面の笑みを浮かべた。
また、ラグビーワールドカップ2019のホストブロードキャスターである
International Games Broadcast Services (IGBS)は、
「日本の芝生は最高だ!」と12会場の中で豊田スタジアムを唯一紹介している。
田井中氏は、「国内外の大会関係者に評価していただいたことは、
名実共に認められたということ。これは名誉だ。信念を貫いて良かった。」
と嬉しそうに語った。
![豊田スタジアム](http://www.baroness.co.jp/mmn/vol77/mmn_textimage1px77_01.gif)
田井中氏の頭の中は、常に芝生のことでいっぱいだ。
いかに情報を早く入手して何ができるか考えること、先を見据えて行動すること、
イメージを持つこと、を心掛けているという。
さらに、頭の中を“見える化”することが一番大切だとも言う。
「自分の経験や勘の蓄積をデーター化することで、後世にノウハウを伝えていきたい。
今はオレの背中を見ろ!の時代ではない。この仕事を若い人たちがやりたいと思う
仕事にしていきたい。」と展望を語る。
そんな田井中氏の趣味は、なんと“書道”だ。
「墨のにおいはスッキリして、頭の中が整理できる。
あの静寂した時間はオレにとって大切な時間だね。(笑)」
と意外な一面も教えてくれた。
田井中氏はグラウンドキーパーの魅力を「芝生は生き物である。食べ物ではない。
付き合うのは難しいけどスポーツターフはエンターテイメントの底辺にある。
そして要求は年々レベルアップしていく。ゴールはない。
さらにグラウンド管理にはX(エックス)Dayがあり、緊張感がある。
だから、達成感を味わいたい人、チャレンジしたい人は楽しめる。」と語る。
グラウンドキーパーは、まさに光を浴びずとも仕事をする!日本人の美徳
ともいえるプロの仕事だ。
過去最高のラグビーW杯として記憶されるだろうと言われた“2019年日本大会”。
そこには陰のMVPとも言える芝生管理のプロフェッショナルたちの熱い思いが
あったことも忘れてはならない。
(2019年12月26日)
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